“ゲームが大好きで、ゲームばかりやっている小学生の男の子を、一か月以内にゲーム嫌いな子供にしてください” 想像してみてください。ある日、著名な心理学者であるあなたのもとに、こんな依頼がやってきました。
学校から帰ると、宿題もしないでTVゲームばかり……。
夕食も急いで食べて直ぐに部屋に帰ってしまいますし、最近は夜更かしもするようになり、朝起きられないこと増えてきました。
そんな状態に困ってしまった男の子のお母さんは、「ゲームは一日一時間まで」と規制してみたり、少しは勉強に意識を向けてもらおうと「テストで90点とれたら、お小遣いをあげる」とエサで釣ろうとしてみましたが、一瞬は効果があるのですが、また直ぐに元に戻ってしまいました。
そんな日々が続くうちに、お母さんは「いっそのこと、この子がゲーム嫌いになってくれればいいのに」と考えるようになりました。
そこで、あなたに依頼が来たのです。
しかし、そうは言っても、そう簡単にはいきそうもありません。
お小遣いで釣る作戦も失敗でしたし、ゲームを禁止してみてもダメでした。
ましてや、依頼主のお母さんの希望は、ただ勉強などに目を向けてくれればいいというものではなく、子供をゲームを嫌いにして欲しいというものです。
難しい依頼ではありますが、あなたの著名な心理学者としての意地とプライドに賭けて、依頼から逃げることはできません。なんとか依頼を達成する方法を考えてみてください。
(ちょっとした頭の体操だと思って、「別にゲームしててもいいと思います」とか「そんな依頼受けません」、「洗脳みたいで倫理的に良くないと思います」などと言ったりせずに、真面目に考えてみてくださいね。) ゲームが大好きな子供でさえ、あっという間にゲーム嫌いに変えてしまう驚くべき方法
何か良い方法は思いつきましたか?
もったいぶっていても仕方がないので、さっそくその方法を紹介していきましょう。
(最初に書いておきますが、当然のことながら、この手の問題に絶対的に正しい正解というものはありませんので、これから書く方法はあくまでも1つの方法に過ぎません。あなたが考えた方法と違っても、決してあなたが考えた方法が間違っていると言いたいのではありません。
とは言え、これから紹介する方法が恐ろしいほど効果がある強力な方法であることは、おそらく誰でも納得してもらえるのではないかと思っています。) では、その手順です。
- まず、子供の好きなものを調べます。
- 今やっているゲームに目標を設定し、その目標をクリアした場合には、子供の好きなものを与えることを約束します。また、目標達成に向けての進捗管理の方法についても約束をします。
- 日々の進捗管理をします。
「今やってるゲームを目標通りにクリアできたら、好きなものをあげるなんて約束しちゃったら、ますますゲームばかりになっちゃうんじゃないの……?」
そんな声が聞こえてきそうですが、心配はありません。
1つずつ説明していきましょう。
- まず、子供が好きなものを調べます。
ここでは、その子は新しいゲームソフトが欲しくて欲しくてたまらなかったということにしてみましょう。
- 今やっているゲームに目標を設定し、その目標をクリアした場合には、子供の好きなものを与えることを約束します。また、目標達成に向けての進捗管理の方法についても約束をします。
例えば、こんな感じです。
○○くん、新しいゲームソフトが欲しいって言っていたよね。×月△日までに、今やっているゲームをクリアできたら、新しいゲームソフトを買ってあげるよ。
でも、その為にはいくつか条件があるんだ。
まずは×月△日までに今のゲームをクリアするためには、一日ごとににどこまでゲームを進めればいいのか計画を立てて、一日に進めなきゃいけない目標を書き込んだ日程表をつくってね。それができたら、毎日、その日程表を見ながら計画より早くゲームが進んでいるのか、それとも計画よりも遅れているのか一緒に確認しよう。
で、もし計画通りにゲームを進められていたらお小遣いをあげよう。さらに、計画より早くゲームが進めることができたら、その日はお小遣いは2倍にしてあげるよ。そのかわり、もし計画よりも遅れていたらお小遣いは無しだ。
それから、ゲームをクリアするまでにいくつか節目になるポイントがあるだろうから、そのポイントをあらかじめ決めておいて、そのポイントに到着したら、一緒にどうやってそのポイントを乗り切るか決めるようにしよう。キミがそのポイントをクリアするための計画を立てて報告してくれれば、私がその計画でOKかどうか判断するよ。
- 日々の進捗管理をします。
ここまでくれば、あとは計画通りにゲームが進んでいるかを日々確認し、子供が計画通りに、出来ることなら計画以上に早くゲームをクリアできるようにサポートするだけです。
日々の確認では、次のようなことに特に注意するようにします。
- もし、計画よりも進捗が遅れているようであれば、直ぐに日程を取り戻す為の新しい計画を立てさせ、その計画が実行されるように厳しくチェックしていきます。
- もし、子供が目標であるゲームのクリアに直結しない遊び方を見つけて熱中していたりしたら、目標達成のための大きなリスクになり得ますので、子供の為にも、ゲームクリアに直接つながる事だけに集中するように軌道修正してあげましょう。
(ゲームをやったことがない人には想像しにくいかもしれませんが、ゲームの中に直接クリアに関係ないミニゲームや隠し要素が用意してあることがよくあります。また、そういうものが用意していなくても、ゲームの開発者が意図していないようなゲームクリアとは全く関係のない遊び方を見つけるは、子供の旺盛な創造性の得意技です。) - ゲーム内で重要なポイントに設定した中間確認会は特に重要です。もし、一度でクリアできなければ二度手間になってしまい、ゲームクリアが遅れてしまうリスクが高まります。子供の立てた計画が、クリアの為に十分なものになっているか?、計画通りの準備が出来ているのかをしっかりとチェックし、もし計画や準備が不十分であれば、しっかりとその点を指摘し、改善させましょう。子供の説明が論理的でない場合には、子供に複数の計画を立てさせて、それらのメリット・デメリットの比較表をつくらせるなどして、論理的な意思決定を心がけましょう。放っておくと、子供はよく、もっと合理的にクリアする方法あるにもかかわらず、自らあえてハードルの高い道を選択し、挑戦的なチャレンジをするような自己満足的な楽しみ方を始めたりするものです。
- もし、目標達成に対する子供のやる気が足りないようであれば、「新しいゲームソフトが欲しいんじゃなかったの?」、「お小遣いはいらないの?」などというように子供の目標達成に対するやる気を引き出す言葉がけをするようにします。大丈夫。新しいゲームソフトが欲しくてたまらないんだから、きっとやる気を出してくれるはずです。
楽しかったはずのゲームが、やがて仕方なく嫌々やるものへ……
いかがでしょうか?まだ、子供が大好きなゲームを好きにやらせる上に、報酬など設定したら、ますますゲーム好きになってしまうと思われますか?
もし、私がその子供の立場であれば、数時間もたたないうちにゲームがつまらなくなると思います。
だって、想像してみてください。
例えば、RPGゲームであれば、ボス戦の度に、そのボスの攻略法をいちいち説明して、OKをもらわなければいけないんですよ。説明の手間だけでも想像するだけで嫌になります。その上、例えば気に入っているけれども少し弱い装備などを使っていたりすれば、すぐに合理的でないと却下されてしまいます。あえて自分で制限を設定して、より挑戦的なチャレンジを楽しむことなどもってのほかです。
(相変わらずゲームをやったことがない人にはわかりにくい例えで申し訳ありません。)
それでもまだ、報酬欲しさや義務感から嫌々ゲームを続けるかもしれません。
そんな時に、「今日はもうゲームやったの?今日もお小遣いもらえるように頑張ろうね。」などと声をかけられる日々が続けば、そのうちゲームが苦痛になると思います。
そして、1か月もたたないうちに、「もう新しいゲームなんて欲しくない!今のゲームだってもうやりたくない!」となると思います。
封印される、「創造性」「情熱」「やる気」「集中力」
さて。ゲームが大好きな子供をゲーム嫌いにしてしまう方法について書いてきました。
もし、あなたが子供の立場で、あなたの大好きな事に同じ方法を使われたとしたらどうでしょうか?あなたはその大好きな事ですら、嫌になってしまうでしょうか?
結論から言えば、あなたが大好きな事に対しても、上で紹介した方法は、ほぼ間違いなく効果を発揮するといっていいと思っています。
実は、上で紹介した方法は、私が勝手な推測で書いているのではありません。
こういった動機付けについては様々な研究や調査が行われており、そういった裏付けをもとにして、ゲーム好きの子供をゲーム嫌いにしてしまう方法を書いたのです。(詳しく説明を始めると長くなってしまうので、次回以降に譲ります。)
【 参考記事 】
ところで、既に多くの読者の方がお気づきのことだとは思いますが、上で紹介した方法は、私たちも日常生活でよく目にする方法です。
多くの企業では、マネジメントという名でこの方法が使われ、教育熱心な家庭では、子供の勉強に対して、上で書いたほど極端にではないにしても似たような方法が使われているのを見聞きすることもあります。
子供が大好きな事に対して発揮する力は物凄いものがあります。
学校の授業ではまったく集中力のない子供が、自分の大好きなことに対しては、信じられないほどの集中力や創造性を発揮することがあります。
勉強や学校の行事では、ほとんど自主的な行動を見せずにやる気のなさそうにしている子供が、自分の興味のあることに対しては、周りが驚くほどのやる気と情熱を見せることがあります。
もちろん、多くの人々の生活に影響を与える仕事と、いつでもリセットできるTVゲームの世界を同列に語ることはできません。
しかし、現在多くの職場や教育の場で、子供が大好きな事に対して発揮するような力が発揮されずに封印されてしまっているとしたら、それを無視し、「仕事なんだから仕方がない」と割り切ってしまうのは、あまりにも残念でもったいないことです。 もし、今この時も多くの企業でマネジメントという名で使われているこの方法に変わって、仕事を円滑に回す方法があったとしたら……。
まるで両手両足を縛ったうえでプールに放り込み、「上手く泳げ」、「もっと早く泳げ」と要求するかのような、“常識的なマネジメント”のもとで生まれる苦悩から、どれだけ多くの人が解放されるでしょうか? 視点を会社側に移せば、今度は、「従業員のやる気が低い」、「新しいことをしようとしない」、「創造的な意見が出てこない」といった悩みも、“常識的なマネジメント”によって封印された従業員のやる気や創造性を解放することによって、解消に向かうでしょう。 教育の現場でも同じです。
教育熱心な家庭で、塾で、学校で、子供に勉強を強いるのではなく、子供が本来持っている集中力や創造性、やる気、情熱などを邪魔しないように子供の学びを助けることが出来たとしたら、どれだけ多くの子供がイキイキと学ぶことができるでしょうか? そして、そんな子供たちの存在は、社会にとって、日本にとって、地球にとって、どれほど心強い存在となってくれるでしょうか? 【 参考記事 】
では、私たちには、「今、何ができるのか?」
とは言え、根拠もなく理想論ばかりを言っていても仕方がありません。
次の記事から数回に分けて、そんな夢のような話を現実のものにしていく為に、私たちが「今、何ができるのか?」について考えていきたいと思います。
まずは、今回紹介した方法が効果があると思われる根拠の一つから紹介していきたいと思います。
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「内発的動機付け」と「外発的動機付け」 小さな違いが、人生を変える それから、念の為、最後に書いておきます。
わざわざ伝えるまでもないとは思いますが、今回の記事で紹介した方法はあくまでも冗談です。間違っても本当に、この方法をつかって子供をゲーム嫌いにしようなどとは考えないで下さいね。
下手をすれば、
親子の絆に亀裂を入れてしまうだけでなく、子供のパーソナリティにも悪影響を与え、その子の一生を左右してしまうこともないとは言い切れません。