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「モチベーション3.0」-常識を覆す、やる気を引き出す科学的方法

前回の記事では、ダニエル・ピンク氏の最新作『人を動かす、新たな3原則』を紹介しました。

せっかくの機会ですので、今回は、このサイトでも何回か引用させてもらっている『モチベーション3.0』(ダニエル・ピンク著)の紹介と感想を書いていこうと思います。

『モチベーション3.0』を、思いっきり要約して、一言にまとめると……

前回紹介した、『人を動かす、新たな3原則』が、

「Always Be Closing(必ずまとめろ契約を)」からの脱却

を目指した本だったとするなら、この『モチベーション3.0』という本は、

「アメとムチ」からの脱却

を目指した本だと言っていいと思います。



どういう意味なのでしょうか?もう少し詳しく説明しましょう。

現在の社会を支えている社会システムの多くは、「アメとムチ」の原理を前提としています。

  • お金を貰えるから、嫌な仕事でも頑張る。
  • クラスで1番の成績を収めて表彰されたいから、勉強を頑張る。
  • 仕事をサボっていると、怒られるから、真面目に働く。
  • テストで低い点をとって恥ずかしい思いをしたくないから、一応最低限の勉強はしておく。
例えばこんな場合には、「アメとムチ」の原理から、真面目に働いたり、勉強をしていると言えるでしょう。

現在の社会では、会社や学校など、多くの人が長い時間を過ごす場所で、当然のようのに、この「アメとムチ」が用いられています。

そして、多くの人が、当たり前のように、この「アメとムチ」の原理を正しいものだと信じています。

  • 競争がなければ、成果が上がるわけがない。
  • 優秀な結果を出した人には、それに応じた報酬を。結果を出せない人には、それなりの待遇を。そうじゃなかったら、誰も頑張らないでしょ?


多くの人が、そう信じて疑わないでしょう。

しかし、多くの人が信じて疑わない、この「アメとムチ」の原理に正面から疑問を投げかけるのが、この『モチベーション3.0』なのです。

モチベーション3.0とは?

では、まず最初に“モチベーション3.0”という言葉の意味について簡単に説明しておきましょう。

<モチベーション1.0>
<モチベーション2.0>
<モチベーション3.0>
モチベーションの基本ソフト(OS)。つまり、社会がどのように機能するか、人間がどのようにふるまうのかに関する仮定と指令で、法体系、経済的取り決め、ビジネスの慣行などに行き渡っている。<モチベーション1.0>は、人間は生物的な存在なので生存のために行動する、とみなした。<モチベーション2.0>は、人には報酬と処罰が効果的だとみなした。現在必要とされているアップグレード版の<モチベーション3.0>は、人間には、学びたい、創造したい、世界をよくしたいという第三の動機づけもある、とみなしている。
ダニエル・ピンク著 大前研一訳 「モチベーション3.0」講談社(2010年)P.31より
基本ソフト( OS = Operating System オペレーティングシステム )というのは、パソコンで言えば、Windowsや、アップルのMacのような、パソコンの基本的な機能を提供しているシステムの事です。
スマートフォンでは、GoogleのAndroidや、Apple社iPhoneのiOsが有名ですね。
例えば、Windowsが搭載されたパソコンは、Windowsのルールに従った動作をします。そして、当然のことではありますが、そのパソコンを使いたい人はWindowsのルールに従った操作をして、そのパソコンを使います。

ダニエル・ピンク氏は、私たちのモチベーションを駆り立てる仕組みを、このパソコンなどで使われる基本ソフト(OS)に例えています。

そして、Windowsに「Windows XP」や「Windows7」、「Windows8」などがあるように、モチベーションの基本ソフト(OS)にも、「モチベーション1.0」、「モチベーション2.0」、「モチベーション3.0」があるといいます。

これらのモチベーションの基本ソフトの特徴を簡単にまとめると、次のようになります。

「モチベーション1.0」生存の為に必要な動機付け
( 例:空腹を満たしたい。 )
「モチベーション2.0」外的な報酬による動機付け
( 例:あれをくれるというから、これをします。 )
「モチベーション3.0」内的な報酬による動機付け
( 例:楽しいからやるんです。)
人々が、天敵から身を守り、今日の食料を見つけることが最優先だった時代には「モチベーション1.0」が役に立ちました。

そして、工業時代が始まると、「モチベーション2.0」が、社会の発展に一定の役割を果たしました。この「モチベーション2.0」を駆り立てるために発達したのが「アメとムチ」の原理に基づく社会システムです。

しかし、現在の私たちは、この「モチベーション2.0」を前提につくられた社会システムを脱却し、「モチベーション3.0」を中心とした社会に移行していく必要があるというのが、ダニエル・ピンク氏の主張です。

パソコンに使うWindowsのような基本ソフト(OS)も、時代が変われば古くなり、アップグレードが必要になるのと同じように、モチベーションの基本ソフト(OS)もアップグレードが必要になるというのです。

【 “和楽の道”が発行する無料メール講座 】

ダニエル・ピンク氏のTEDプレゼンテーション「やる気に関する驚きの科学」(日本語字幕付き)

では、なぜ「モチベーション2.0」から、「モチベーション3.0」へのアップグレードが必要になるのでしょうか?

ダニエル・ピンク氏が、このことについて語っているプレゼンテーションがyoutubeにアップされているので、ここで紹介しておきましょう。(日本語の字幕が付いているので、英語が苦手な人でも問題なく見ることが出来ます。)


いかがでしたでしょうか?

既にこの分野に興味がある人にとっては、決して真新しい情報ではなかったかも知れませんが、多くの人にとっては、まさに「驚きの科学」だったのではないでしょうか?

多くの人が正しいと信じている「アメとムチ」の原理にも問題があるというのです。

「モチベーション2.0」のデメリットは、これだけではない

書籍『モチベーション3.0』では、一部上の動画の内容と重なる部分もありますが、「アメとムチ」の問題点として次のようなことを指摘しています。

【アメとムチの致命的な7つの欠陥】
  1. 内発的動機づけを失わせる。
  2. かえって成果があがらなくなる。
  3. 創造性を蝕(むしば)む。
  4. 好ましい言動への意欲を失わせる。
  5. ごまかしや近道、倫理に反する行動を助長する。
  6. 依存性がある。
  7. 短絡的思考を助長する。
ダニエル・ピンク著 大前研一訳 「モチベーション3.0」講談社(2010年)P.93より
このような「アメとムチ」の問題点については、これまでの記事(下記の参考リンクを参照)でも扱ってきましたが、ここでも1つだけ例をあげて説明しておきましょう。

例えば、医者が、「人を助けたい」という「モチベーション3.0」を失くし、目の前の利益という「モチベーション2.0」の虜なってしまったらどうでしょう?

経済的合理性を求めて、時間当たりの診察数を増やそうと、十分な時間をかけずに一人ひとりの診察を終わらせてしまうかもしれません。あるいは、本来はしなくてもいいような高額な治療を勧めるかもしれません。

また、あまり利益の上がらない病を抱えた患者は、たとえ患者が苦しんでいたとしても、見捨ててしまうかもしれません。

これを上で紹介した「アメとムチの致命的な7つの欠陥」に当てはめてみるとすれば、「好ましい言動への意欲を失わせる」や「ごまかしや近道、倫理に反する行動を助長する」、「短絡的思考を助長する」などが当てはまるでしょう。

「モチベーション2.0」から「モチベーション3.0」へ

このような理由から、ダニエル・ピンク氏は、「モチベーション2.0」から「モチベーション3.0」へのアップデートが必要だと主張しています。

<モチベーション2.0>は、外的な報酬と罰を中心に構築された。これは、二〇世紀のルーチンワークには有効だった。だが、二一世紀を迎えて、<モチベーション2.0>は、私たちの組織、仕事に対する考え方やその手法とは、互換性がないことが明らかになってきている。アップグレードが必要である。
ダニエル・ピンク著 大前研一訳 「モチベーション3.0」講談社(2010年)P.31より
私もこの本に出会う数年前の2007年~2008年くらいから、外的な動機付けによって人を動かし秩序を維持する社会から、内的な動機付けによって人が自ら動くことによって調和が維持される社会への変革を夢見るようになっており、2013年の今でも、それは私にとって興味がある中心的なテーマの一つになっています。

(ちなみに、今あなたが読んでいるこのサイト「和楽への道」を立ち上げた理由の1つも、微力ながらも、そんな社会の実現に貢献したいという理由ですし、無料公開中の物語「真実の人生」も同様で、自分の内的な動機と、自分の外の世界との調和をとるための方法について書いたものです。)

このように、このテーマは私にとっても重要なテーマだった為、この「モチベーション3.0」という本に出会ったときには、とても心強い気持ちになったのを覚えています。

というのも、この時点で出ていたダニエル・ピンク氏の著作は『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』は手に取ったこともなく、『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』についても、パラパラと数ページ眺めただけでほとんど読んでいないという状態でしたが、彼が著名なベストセラー作家であることくらいは知っていたので、「ついにこのような人がこのテーマを扱ってくれたか!」と思ったのです。



「モチベーション3.0」が中心の世界は、どんな世界なのか?

では、もし私たちが“「モチベーション2.0」から「モチベーション3.0」へとアップグレードされた社会”、“外的な動機付けによって人を動かし秩序を維持する社会から、内的な動機付けによって人が自ら動くことによって調和が維持される社会”へと移り住むことが出来たらとしたら、そこにはどのような世界が待っているのでしょうか?

そこには、マネジメントの名の下に、部下が「本当はやりたくもないことに、やる気を出してくれるように」と、「アメとムチ」をちらつかせる上司は、もういないでしょう。

たったそれだけのことでも、上司にとっても部下にとっても、大きなストレスの種が消えることになるでしょう。

面倒くさい仕事が来ないようにと“忙しそうなフリ”をする必要はもうなく、誰もが、誰に強制されることもなく、自主的に、遊びに熱中する子供のような集中力や創造性と、大人の知性を両立して仕事に取り組んでいます。

周りに合わせて、小学校、中学校……と進み、みんなと同じように就職活動をしても、そこで待っているのは「アメとムチ」に翻弄される毎日ではありません。

教育の現場では、従順に「アメとムチ」に従うことを教え、訓練する変わりに、「自分のやりたいことをしながら生きるためにはどうすればよいのか」が教えられています。

学校や、職場、家庭、etc……。私たちが生活している社会の基本システムを、「モチベーション2.0」から「モチベーション3.0」にアップグレードすることが出来れば、私たちの幸福度は飛躍的に高まるでしょう。
さらに、このアップグレードが起これば、それは個人の幸せというレベルを超えて、人類史レベルの変革にもつながるのではないかと思っているのですが、長くなるのでここでは触れません。

「モチベーション3.0」中心の社会へ!

もちろん、現在の常識で考えれば、このような“「モチベーション3.0」が中心の社会”、“内的な動機付けによって人が自ら動くことによって調和が維持される社会”というのは、まるで夢物語のような現実味のない世界かもしれません。

しかしもし、少しずつでも、そのような社会を実現したいと思ったとき、私たちにはいったい何ができるのでしょうか?

これには、大きく分けて2つの答えが考えられます。

  • 1つは、社会の仕組みを変えていくトップダウン的な方法です
  • そしてもう1つの方法は、私たち一人ひとりが変わっていくボトムアップ的な方法です

トップダウンで「モチベーション3.0」を実現する

1つ目のトップダウン的な方法というのは、まずは社会の仕組みを変えてしまえば、そのメンバーはそれについて来るだろいうという考え方です。

例えば、この『モチベーション3.0』という本では、「20%ルール」という制度が紹介されています。

二〇%ルール 勤務時間の二〇%を、自ら選んだ好きな企画にあてることが認められる、少数の会社で導入されている新たな取り組み。
ダニエル・ピンク著 大前研一訳 「モチベーション3.0」講談社(2010年)P.31より
(この「20%ルール」が、どんな結果を出しているのか知りたい場合は、『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』を読んでみてください。)

このように、まず仕組みやルールを変えることによって、その社会に所属している人々へ、「モチベーション3.0」的な生き方を浸透させるのが、トップダウン的な方法です。

もちろん、このように仕組みやルールといった外からの働きかけを使って人を変えようというのは、あまり「モチベーション3.0」的ではありません。

それでも、自転車に乗れない子供が自転車に慣れるには補助輪が必要ということもあるでしょう。ですから、このようなトップダウン的な方法も一概に否定するものでもないと思います。

しかしこの方法には、もっと別の大きな問題があります。

それは、多くの人にとって簡単に実行できるものではないということです。
最初に仕組みやルールを変えるのですから、この方法を実行できるのは、仕組みやルールを変えることができる人だけです。
ですから、その組織の中である程度指導的な立場の人でなかれば、この方法を実行するのは難しいでしょう。

例えば、上で紹介した「20%ルール」を導入したいと思ったとき、経営者であれば導入は比較的簡単かもしれませんが、一般社員にとっては非常に難しいことになるでしょう。

ボトムアップで「モチベーション3.0」を実現する

そこで登場するのが、2番目のボトムアップ的な方法です。

例えば、ある日、その社会で生活しているほとんどの人が、お金や地位といった「外的な報酬」には目もくれずに、自分のやりたいことや意味の感じることだけをして生きていくことができる力を身に着けてしまったとします。

それは例えば、「嫌な仕事をしてでもお金を稼がなければ生きていけない」という状態にあった人々が、「自分がやりたいこと、本当に意味を感じられること」をやってもお金を稼ぐことができると気づき、実際に、そんな生き方を実践する能力を手に入れてしまったというような状態です。

すると、翌日からは、これまでは正常に機能していた「アメとムチ」という「外的な報酬」によって人を動かしていた社会は成立しなくなります。

自分がやりたいことをしていても生活できるようになってしまったのですから、わざわざ、やりたくもなければ意味も感じられないようなことをする人はいなくなるでしょう。

そうなれば、必然的に、「モチベーション2.0」中心の社会から「モチベーション3.0」中心の社会へと移行していかざるを得なくなってしまうでしょう。

この方法で重要なのは、その気さえあれば、必要な能力を身につけ、誰でも実行に移すことができるということです。
この方法を実行するためには、経営者であったり政治家であったりする必要はないのです。


ここで私が言いたいのは、どちらの方法がいいとか、悪いなどの話ではありません。

トップダウン的方法も、ボトムアップ的方法も、両輪の輪のように助け合っていけばいいのだと思います。

それよりも大切なのは、「その方法は、自分に実行することができるのか?」ということです。
それは、実行できなければ、どんな素晴らしい方法も、絵にかいた餅になってしまうからです。

ですから、「モチベーション3.0」中心の社会を目指すのであれば、経営者などの指導的な立場の方には「20%ルール」のような仕組みを積極的に導入してほしいと思いますし、それが出来ない人には、社会が変わるのを待つのではなく、自分が出来ることをして欲しいと思っています。

『モチベーション3.0』はトップダウン型。では、ボトムアップを実践するには……?

そういう視点で『モチベーション3.0』という本を読んだとき、あえて残念な点を探すとすれば、それはボトムアップ型を実践するために非常に重要になる点が扱われていないということです。

それは、個人が「モチベーション3.0」に従って、「自分がやりたいことをして生きていこう」と思ったときに、まず間違いなくぶつかる壁のことです。

その壁というのは、

「自分がやりたいことをする」ということと、「社会との健全で調和的な関係を築く」ということを、いかに両立するか?
ということです。

もう少し詳しく説明しましょう。

残念ながら現在の社会では、多くの人にとって、自分がやりたいことをして生きていくということは、常に「経済的にやっていけなくなってしまうのではないか?」という恐怖や、「周りの人から白い目で見られるのではないか?家族や友人からの批判に遭うのではないか?」という不安と隣合わせだと思います。

つまり、個人が「モチベーション3.0」に従って生きていくためには、「経済的な関係」にしろ、「人間関係」にしろ、周囲との健全で調和的な関係を築く方法を学ぶ必要があると思うのです。

そして、その点をクリアしなければ、現在の社会の枠組みの中では、多くの個人がボトムアップ的に「モチベーション3.0」に従った生き方へとシフトしていくことは難しいのではないかと思っています。
ボトムアップ型で「モチベーション3.0」的な生き方を実践するためには、この壁を超えることが必要になるのです。
では、その壁を超えるにはどうしたらいいのか?

宣伝のようになってしまいますが、その壁を超えることを1つのテーマに書いた物語が『真実の人生』です。

また、前回の記事に書いたように、ダニエル・ピンク氏の新著『人を動かす、新たな3原則』にも、『真実の人生』とシンクロする内容が書かれています。

(ダニエル・ピンク氏自身がそうだと明言しているわけではありませんが、私は、『人を動かす、新たな3原則』という本が書かれた背景には、『モチベーション3.0』では充分に扱えなかった“壁の越え方”を伝えるという意図があったのではないかと、秘かに思っています。)

もしあなたが、社会が変わってくれるのを待つのではなく、「モチベーション3.0」に満たされた毎日に向かって自ら一歩を踏み出したいなら、これらを読んでみることをお勧めします。
(繰り返し宣伝になってしまい恐縮ですが、『真実の人生』は、何度も紹介するに値する重要なテーマだと思ったからこそ、わざわざ手間をかけて書いた物語です。そのため、必然的に紹介が多くなってしまっていますが、その点はご了承ください。)
warakunomichi