ある日突然、あなたの目の前に怪しげな男が現れ、自信満々に宣言しました……。
「今から、あなたの手は、あなたの意志に反して勝手に動きはじめます。」 もしこんな場面に遭遇したら、あなたならどう思うでしょうか?
体が勝手に動く!?催眠術……?
怪しさ120%ではありますが、実は、こんなことが誰にでも起こりうることだったとしたらどうでしょう……。
随意運動と不随意運動
人間の運動は、大きく分けて“
随意運動”と“
不随意運動”の2つにわけることができます。
随意運動というのは、自分で意識して行う運動です。
例えば、手を上げる、うなずく、物をつかむ、投げるなどがあげられます。
それとは逆に、
不随意運動というのは、自分で意識とは関係なくされる運動です。
例えば、心臓の鼓動などは、自分の意志で心臓を動かそうなどと考えなくても起こっている運動です。
また、随意運動と不随意運動の組み合わせもあります。
例えば、呼吸は特に意識しなくてもしていますが、意識して止めることや、呼吸のスピードを変えることができます。
Wikipediaでは、次のように書かれています。
随意運動(voluntary movement、ずいいうんどう)とは、生物の行う運動の中でも、自己の意思あるいは意図に基づく運動のことをいう。自己の意思によらない、あるいは無関係な運動は不随意運動あるいは反射運動と呼ばれる。
具体的な随意運動は飛翔、歩行、走る、水泳、匍匐(ほふく※)などがある。人間に限った例では発声・発音も含まれる。
(注:ただし、※部のふりがなは引用者による追記)
Wikipedia 「
随意運動」(2013年3月7日 最終更新版)
今回の記事のテーマである「手を動かす」は、考えるまでもなく「随意運動(=自分の意思で行う運動)」と思えます。
しかし実は、必死に手を動かすまいと努力しても、
あなたの意志に反して勝手に手が動いてしまうことがあるのです……。
十分に実験を味わうための準備
ではさっそく、このことを実際に体験してみましょう。
必要なものは「振り子」だけです。
振り子というと怪しげですが、なにか高度なテクニックが必要になるようなことをするわけではありません。誰でも簡単にできる内容です。
ただし、ちょっと手間ではありますが、できれば
五円玉に糸を通したようなある程度しっかりした振り子を用意することをおすすめします。
なぜかと言うと、私が初めてこの実験を知った時、試しにイヤホンを振り子代わりにして実験してみました。
しかしその時は、ちゃんとした振り子を使わなかったせいで、上手くいったような上手くいかなかったような微妙な結果となってしまいました。
そして、次にちゃんと五円玉に糸を通した振り子用意してやってみたときの驚きが小さくなってしまうという、なんとも残念な結果になってしまいました。
ですから、できれば最初から、ある程度しっかりした振り子を用意していただくことをおすすめします。
糸の長さは、だいたい20cm前後(肘を机について振り子を持ったときに、おもりが机にぶつからないくらいの長さ)でOKです。
振り子の実験
では、さっそくはじめましょう。
- 振り子を手で持ち、振り子を持つ手の肘は机などに着いて固定します。
- 振り子がピタッと静止している状態で、絶対に自分の意志で振り子を揺らさないように意識しながら、振り子をじっと見つめてください。
そして、振り子がブランコのように左右に揺れている状態をイメージしてください。
念のためにもう一度書いておきますが、絶対に自分の意志で振り子を揺らそうとしないでくださいね。
「絶対に手を動かさないぞ」と決意しながら、「振り子が左右に揺れている姿」をイメージしてください。その状態で、1分間くらい振り子を見つめ続けます。
では、はじめてください。
イメージだけで、振り子が動く……?
いかがでしたでしょうか?
振り子をぴたっと止め続けることはできましたか?
もしかしたら、振り子が勝手に動き始めてしまった……。なんてことは、ありませんでしたか? な~んて書いてみましたが、振り子がイメージしたとおりに揺れてしまって、まったく問題ありません。
むしろ、自分の意志に反して、想像した通りに振り子が動き始めるのを体験するのが、この実験を紹介した意図です。
とはいえ、たったこれだけでは、まだこの不思議な現象に納得がいかないかもしれません。
もう少し別のパターンでもやってみましょう。
たとえば今度は、左右 → 前後 → 回転と、さっきとは違う動きをイメージしてみましょう。 いかがでしたか?今度もイメージした通りに振り子が動いたのではないでしょうか?
思い浮かべるイメージを左右 → 前後にかえると、それにつられて、現実の振り子も段々と、左右の揺れから前後の揺れに変わっていく……。
そんな体験ができたのではないかと思います。 ところで、ここで問題です。 この振り子の揺れを止めたい場合には、いったいどうすればいいのでしょうか? …………。
もう、おわかりですね?
手を動かさないようにと必死に意識するのではなく、ただ、ピタッと静かに止まっている振り子を頭の中に思い描けばいいのです。
これも、実際にやってみてください。 振り子は止まりましたか……?
予想通りとはいえ、さっきまでは、どんなに止めようと意識しても止まらなかった振り子があっさりと止まってしまうのですから、驚かれたのではないでしょうか?
振り子が動いた理由
では、いったいなぜ、あなたの意志に反して、あなたがイメージした通りに振り子が動いたのでしょうか?
実際に体験されていれば、おそらくすでにお気づきだろうとは思いますので、振り子が動いたのは、あなたの手が動いたからです。
この実験では、意識的に手を動かさないように意識して頂きました。
しかし、意識的には手を動かさないようにしているつもりでも、揺れる振り子のイメージを思い浮かべることによって、あなたの手は意識では制御できないくらいの微妙な振動をはじめてしまい、その結果として振り子が揺れ始めたのです。
あなたが振り子が揺れる姿を思い描くことによって、体が、そのイメージを実現する方向に微妙な動きを起こしてくれたということになります。 イメージしただけで振り子がゆれたからといって、超能力のような未知の力がはたらいたわけではありません。
振り子の実験と、スポーツ心理学・メンタルトレーニング
ところで、この
【引き寄せの法則をちょっと科学的に】シリーズの前回の記事『
メンタルトレーニングの方法論が教える、能力を“出し切る人”と“空回りする人”のちょっとした違い』では、次のようなことを書きました。
“○○な状況”を思い浮かべると、“○○な状況”になるような行動をとりがちになる
例えば、テニスで「ネットしないように」と意識すると、ついつい「ネットにボールが引っ掛かってしまう姿」をイメージしてしまい、その結果、イメージ通りにネットにボールを引っ掛けてしまう。
あるいは、水が溢れそうなコップを持っているときに、「こぼさないように」と意識すればするほど、ついつい「水がこぼれる姿」をイメージしてしまい、本当に水をこぼしてしまいがちになるということを書きました。
(ところで、この記事をまだ読まれていない場合には、なぜ「ネットしないように」と意識すると「ネットする姿」を思い浮かべてしまったり、「水をこぼさないように」と意識すると「水がこぼれる姿」を思い浮かべてしまうのか?と思われるのではないかと思います。
長くなるのでここでは触れませんが、気になる場合は『メンタルトレーニングの方法論が教える、能力を“出し切る人”と“空回りする人”のちょっとした違い』をお読みいただければと思います。) 「ネットにボールがかかる姿」をイメージすれば、本当にネットしてしまいがちになる。「水がこぼれる姿」をイメージすれば、本当に水をこぼしやすくなってしまう。
これはまさに、振り子の実験と同じことが起こっています。 どうやら、人間の体には、自分の意志でその行動を直接的に起こそうとしなくても、心に思い描いたイメージが現実になるように行動しようとする衝動が秘められてると考えられそうです。 振り子の実験と、引き寄せの法則
ではここで、この【引き寄せの法則をちょっと科学的にシリーズ】の本題である、引き寄せの法則と、今回紹介した振り子の実験の関係について考えてみましょう。
まず、引き寄せの法則とは、次のようなものでした。
【 定義 】
「その人の“信じていること”、“考えていること”、“心に思い描いたこと”が、その人の現実になる方向へとはたらく作用」
上でも紹介したこのシリーズの
ひとつ前の記事で紹介した例や、今回の記事で紹介した振り子の実験を思い出してみてください。
これらは、まさに
「その人の“信じていること”、“考えていること”、“心に思い描いたこと”が、その人の現実になる方向へとはたらく作用」だと考えることができます。
「引き寄せの法則」などと言うと、いかにも怪しげです。 しかし、これまでに紹介したことから考えれば、体の微妙な制御にかかわる場面では、十分実用的に使える作用だと考えてもよさそうです。 では、いったい人生のどんな場面で、この作用を役立たせることができるでしょうか?
まず思いつくのは、スポーツ全般や、武道、踊り、乗り物の運転、装置の操作、職人芸を要求されるような細かい作業などの
微妙な体の制御が必要な活動です。
私にはまったく想像もできませんが、おそらく、外科医の手術や、歯科医の虫歯治療などでも役に立つのではないかと思います。
そして、一見、微妙な体の制御など必要ないと思えるような場面でも、この作用は重要な意味を果たしています。 例えば、重要な商談でもいいですし、恋人との大切な話でもいいので、なにか重要な会話をしている場面を思い浮かべてください。
そんなとき、会話している内容に負けず劣らず、表情やちょっとしたしぐさが、結果に大きな影響を与えることがあります。
これまでの例から考えれば、
「どうせ上手くいかない」という想いで臨んでいれば、本当に上手くいかない結果になるように、無意識の表情やしぐさが出てしまうということがあったとしても、不思議ではありません。
このように、【引き寄せの法則をちょっと科学的にシリーズ】の第2回と第3回(今回の記事)で紹介した内容だけでも、これだけの場面で引き寄せの法則が活用できることがわかりました。 しかし、これだけではまだ、「これは人生が変わるぞ!」という衝撃的な程のインパクトは感じられません。 このシリーズの次回の記事では、もう少し別の方向から引き寄せの法則について考えてみたいと思います。 シュブリエルの振り子と、エミール・クーエの法則、努力逆転の法則
ところで、この振り子の実験は、一般的には「シュブリエルの振り子」と呼ばれていて、集中力を鍛える訓練などに使われているそうです。
(シュブリエルの振り子の本来のやり方では、振り子の下に数字をかいた紙を用意するようです。その意味で、今回の記事で紹介した振り子の実験は、厳密にはシュブリエルの振り子ではないかもしれません。)
私の場合は、一時期、スポーツ心理学について少し学んだことがありました。
この振り子の実験も、確かその時に知ったものだと思うのですが、もう詳細は忘れてしまっていたので、この記事を書くためにネットで少し調べてみました。
すると、この「シュブリエルの振り子」は、“意志の力”よりも“想像の力”の方が強いこのとの証明だと書かれている記事をいくつか見つけました。
どういうことかと言えば、
「絶対に手を動かすまい」とする“意志の力” よりも
「振り子が揺れる」とイメージする“想像の力” の方が勝っているために、振り子が動いたのだという主張です。
この“想像の力”が“意志の力”を上回る現象を、「エミール・クーエの法則」とか、「努力逆転の法則」などと言ったりもするようです。
気になる場合は、「シュブリエルの振り子」、「エミール・クーエの法則」、「努力逆転の法則」などのキーワードで検索してみてください。
(ただし、これらのキーワードを扱ったページの中には、最終的には商品案内や催眠などを勧める内容につながっているものが多いので十分ご注意ください。私は、安易な心理操作的な試みには慎重なるべきとの立場です。) “意志の力”と“想像の力”―強いのはどっち?
話をもとに戻しましょう。
振り子を止めようとする“意志の力”と、動かそうとする“想像の力”がぶつかった結果、振り子は意志に反して動き始めてしまった……。
この結果から考えれば、たしかに、“想像の力”が“意志の力”を上回っているように思えます。
しかし私は、この結果をもって「“想像の力”の方が“意志の力”よりも強い」とまで言ってしまうのは少し強引すぎるのではないかと思っています。 例えば、
「振り子がぴたっと静止している状態をイメージで思い浮かべながら、実際には手を動かして振り子を揺らしてください」 と頼まれたとしましょう。
こんなとき、“想像の力”が“意志の力”を上回って振り子を揺らすことができなかった……、という方はおそらくいないのではないでしょうか? あるいは、試合会場に向かう電車の中でイメージトレーニングに励むテニスプレーヤーを思い浮かべてください。
彼(彼女)が、想像の世界でプレイを始めると、「電車の中で暴れてはいけない」と必死で体を動かさないようにする“意志の力”を“想像の力”が上回って、電車の中で激しい素振りをしてしまった……。 もし
本当に、“想像の力”が“意志の力”を絶対的に上回っているとするなら、こんなことが起こってしまうはずです。
これらのことから考えれば、「“意志の力”よりも“想像の力”の方が強い」とまで言ってしまうのは言いすぎだということがわかります。
もちろん、
ただ振り子を揺らすのに比べれば、「振り子が止まっている状態」をイメージしながら振り子を揺らすときのほうが、変な違和感を感じて揺らしにくいとと感じることはあるでしょう。
あるいは、電車の中でイメージトレーニングをするとき、激しく動き回るということはありません。
しかし、
素振りのイメージを思い描けば、たとえ見た目には体が動かなかったとしても、体の筋肉に実際に素振りをしようとする衝動が起こるのを感じます。
うまく言葉にするのは難しいですが、ニュアンスは感じ取っていただけると思います。
これらは、あくまで私の感覚でしかありませんが、おそらく誰もが同じように感じるのではないかと思います。
ですから、必ずしも“意志の力”よりも“想像の力”が強いわけではないと言っても、それは、“意志の力”に負けているときには“想像の力”が働いていないというわけではありません。
そういう意味で、上に書いた例は、“想像の力”(≒引き寄せ)を否定するものではありません。 “意志の力”と“想像の力”―その綱引きを越えて
もっと言ってしまえば、“意志の力”、“想像の力”、と分けて考えること自体にあまり意味がないのかもしれません……。 なぜならば、
振り子が揺れている姿をイメージすることの背景には、「揺れている姿をイメージするぞ!」という意志が存在しているはずです。
あるいは、いわゆる引き寄せの法則を認めるのであれば※、
なにかを心に思い描き、イメージすること自体が、「その現実を引き寄せるぞ!」という意志表示であると捉えることもできなくはありません。
(※このシリーズは、いわゆる引き寄せの法則と呼ばれるような作用が、現実的にある程度以上存在するだろうということがテーマですので、ここではそんな作用が存在するものと考えます。) “意志の力”と“想像の力”。いったい強いのはどちらなのか?
そんなことは、どうでもいいことなのかもしれません。
そんなことよりも大切なのは、“意志の力”と“想像の力”を対立させて使うのではなく、協調させて使うということです。 もっとわかりやすく言えば、「どちらが強いのか?」と競い合わせて、強いほうの力を使って人生をつくっていこうとするのではなく、“意志の力”と“想像の力”のどちらも、あなたにとってよりよい人生を生きるために使うことに意識を向けたほうがいいということです。
なぜならば、
2つの力を競い合わせている間は、まるで綱引きをしながら、強いほうが相手を無理やり引っ張るかたちで進んでいくことになります。
一方で、
2つの力が協調するときは、2つの力が引っ張り合うのではなく助け合いながら進むことになります。
どちらのほうが速いのか?どちらのほうが楽なのか?
考えるまでもありませんね。
“意志の力”と“想像の力”の“和”が、“楽”を生み出してくれるのです。 (もちろん、ブレーキのない車では事故は避けられませんから、ブレーキ作用が不要だと言っているのではありません。ここで言いたいことは、必要もないのにブレーキ踏みながらアクセルを踏み込んで走ろうとするのは大変だということです。
この綱引きの考え方については、このシリーズとは別に記事を書く予定です。) 【
引き寄せの法則をちょっと科学的にシリーズ】の次回の記事では、上にも書いたように、これまでとは別の方向から引き寄せの法則について考えてみたいと思います。